厚生労働省「衛生行政報告例」をもとに、1970年(昭和45年)から2024年(令和6年度)までの約半世紀にわたる理美容業界の施設数・従事者数の推移をまとめました。1年ごとの小さな増減ではなく長期で見ると、業界の構造変化がはっきりと浮かび上がります。
美容所は半世紀で2.4倍に
全国の美容所数は、1970年の 116,021施設 から2024年には 277,752施設 へと、約 2.4倍 に増加しました。
高度経済成長期からバブル期にかけて急増し、その後も一貫して右肩上がりを続けています。
美容所は半世紀にわたって、ほぼ一度も減ることなく増え続けてきました。
理容所は1980〜90年代がピーク、その後は減少
一方で理容所は対照的な動きです。1970年の136,116施設から増加し、1980年代には 約145,000施設 でピークを迎えます。
しかし約20年の横ばいを経て、2000年代以降は減少が続いています。2024年には 107,995施設 となり、ピーク時から約4分の1が失われた計算です。
背景にあるのは経営者の高齢化と後継者不足です。新規参入が少ない中で、ベテラン店主の引退に伴う廃業が目立っています。
1970年代後半、美容が理容を「逆転」
注目すべきは施設数の逆転です。1970年時点では理容所(136千)が美容所(116千)を上回っていました。
しかし1970年代後半に美容所が理容所を追い抜き、以降は差が開く一方となりました。2024年には美容所が理容所の約 2.6倍 に達しています。
担い手(美容師・理容師)も同じ傾向
施設数だけでなく、従事者数にも同じ構造変化が表れています。
- 美容師数は1970年の 216,906人 から2024年の 588,291人 へと約2.7倍に増加。
- 理容師数は1970年の 265,248人 から2024年の 194,531人 へと減少。
従事者数も1970年代後半に逆転し、現在では美容師が理容師の約3倍となっています。
1店舗あたりで見える「理容の小規模化」
施設数と従事者数を割り算すると、1店舗あたりの従事者数が見えてきます。
美容所は1970年の 約1.9人 から2024年には 約2.1人 へと微増し、複数のスタッフを抱える店が少しずつ増えてきました。一方の理容所は 約1.9人から約1.8人 へと減少しています。
経営者ひとり、あるいは夫婦で営む個人店の比率が高まり、規模の面でも美容との差が広がっていることがうかがえます。
人口あたりで見ても、美容は倍増・理容は3割減
店舗数そのものは人口の増減にも左右されます。そこで人口10万人あたりの施設数で比べると、傾向はさらにくっきりします。
美容所は1970年の約112軒から2024年には約224軒へとほぼ倍増。これに対し理容所は約131軒から約87軒へと、3割以上減りました。1970年には理容所のほうが「身近」だったのが、現在は完全に逆転しています。
日本全体が人口減・高齢化に向かう中で、美容所だけが密度を高め続けている構図です。それだけに、出店の多いエリアでは店舗同士の競争も激しくなっています。
なぜ美容は伸び、理容は減ったのか
半世紀の構造変化の背景としては、次のような要因が指摘されています。
美容側では、カラーやパーマなど施術メニューの多様化、男性の美容室利用の広がり、まつげエクステやヘッドスパといった新しいサービスの登場が需要を押し上げてきました。比較的小さな資本で独立しやすく、面貸し(シェアサロン)といった柔軟な働き方が広がったことも、施設数の増加を後押ししています。
一方の理容側では、男性の整髪頻度の低下や、低価格のカット専門店への利用集約が進みました。そこに経営者の高齢化と後継者不足が重なります。新規参入が細る中でベテラン店主の引退がそのまま廃業につながり、店舗数の減少が止まりにくい状況が続いています。
まとめ:半世紀で進んだ「美容シフト」
長期データで見ると、理美容業界では一貫して「美容の拡大・理容の縮小」という構造変化が進んできたことがわかります。
総量だけでなく、1店舗あたりの規模や人口あたりの密度といった切り口で見ても、その流れは共通しています。
- 美容は半世紀で施設・人材ともに2.4〜2.7倍に拡大し、人口あたりでもほぼ倍増。今後は店舗過密の中での差別化がより一層求められます。
- 理容はピークから減少が続き、1店あたりの規模も小さくなっています。一方で近年は「バーバースタイル」の再評価など、特定ニーズを捉えたリブランディングに成功する店舗も注目されています。
数字の大小だけでなく、その裏にある社会の変化まで合わせて見ると、これからの理美容業界の方向性も見えてきそうです。
(出典:厚生労働省「衛生行政報告例」各年版、総務省「人口推計」)